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中野区自治基本条例の改正と、「被選挙権」の保障について

 中野区には自治基本条例という条例があります。

 前文では、「中野区民は、多くの先人によって積み重ねられてきたまちの歴史と人々のきずなを重んじ、更に発展させながら次世代に引き継ぎ、区民が愛着と誇りを持つふるさと中野をつくり上げることを希求しています。そのためには、区民が自ら行動し、自ら築くまちづくりの主役になることが不可欠であり、区政においては、区民の多様な参加を保障し、区民の意思に基づく決定と運営を行うことが基本となります。中野区は、こうした自治体運営の基本を確認し、区民、区議会及び区長がそれぞれの役割と責任を果たしながら、区民の最大の幸福を実現する地域社会の形成に向け努力していきます。こうした認識の下に、中野区における自治の基本を定めるものとして、ここに中野区自治基本条例を制定します。」
そして、目的を定める第1条では 「第1条 この条例は、中野区の自治の基本原則を明らかにするとともに、区民の権利及び責務並びに区議会及び執行機関の責務等、行政運営及び区民の参加の手続等の基本的な事項について定めることにより、区民の意思を反映させた区政運営及び区民の自治の活動を推進し、もって安心して生き生きと暮らせる地域社会を実現することを目的とする。」と定められております。

 自治基本条例と個別の条例は、憲法と法律のような上下関係はないものの、区の基本を定める根本となるものです。

 ただし、地方分権の流れや、地方自治の住民自治・団体自治が重んじられる昨今であっても、条例は憲法や法律に則る必要があります。

 現在まで、中野区の自治基本条例には
「 (区長の役割及び在任期間)
第7条 区長は、区民の信託にこたえ、区の代表者として、公正かつ誠実な行政運営を行わなければならない。
2 活力ある区政運営を実現するため、区長の職にある者は、連続して3期(各任期における在任期間が4年に満たない場合もこれを1期とする。)を超えて在任しないよう努めるものとする。
3 前項の規定は、立候補の自由を妨げるものと解釈してはならない。」
 という規定があります。
 本定例議会ではこの規定のうち第二、第三項を削除する案が上程され、今日まで委員会での審議がなされました。


 なお、憲法15条1項は、「公務員を選定する権利」を国民固有の権利として保障しています。これは選挙権の他に、さらに立候補の自由までをも保障しているかという議論がありましたが、
「立候補制度を採用せざるを得ない選挙制度の下では、立候補に対する制約は、立候補の自由と表裏の関係にある選挙権の自由な行使を制約することにもなる。憲法15条1項は、選挙権の保障の他に、立候補の自由をも保障しているものと解するのが自然である。」【最高裁昭和43年12月4日大法廷判決】という判決が出ています。
 つまり、全ての国民には被選挙権が保障されており、これは現職の公職者に関しても同様であるとの解釈ができます。

 これによって、平成17年の条例制定時には、多選自粛規定を盛り込むことについて、憲法上問題があるとして共産党が多選自粛条項を盛り込むことに反対をいていたという歴史背景があります。

 そして、平成19年に研究会からの報告レベルではありますが、総務省のHPにも掲載されている、「首長の多選問題に関する調査研究会報告書(要旨)」によりますと、( http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/shuchou/pdf/070530_2.pdf ) 多選の禁止を巡っては、全国的に一律で多選を禁止する場合も、自治体の条例に委ねる場合も、「在任制限を制度化する場合には、法律にその根拠を置くことが憲法上必要であり、地方公共団体の組織及び運営に関する事項を一般的に定めた地方自治法において規定することが適当であると考えられる。」とされています。

 こうした研究会の報告に対して、中野区の自治基本条例の場合は多選を禁止する条項ではなく多選の自粛を任意に求める努力規定であることからか、行政側も議会側も中野区の自治基本条例の多選自粛条項についてこのタイミングでの何らかの議論がなされた形跡はなく、そのままにされていたようです。

 なお、今回の委員会審議の中で、上記の事柄に触れたうえで、選挙管理委員会の事務局長に対して
「選挙管理委員会は、多選自粛の規定の有無によって、多選状態にある区長が立候補の届け出に来た時に、立候補の受付を拒むことなどがあるのでしょうか?」という旨の質問をしました。
そうしたところ、「選挙管理委員会としては、条例の有無に関わらず、公職選挙法に則って手続きを行うものであり、公職選挙法で定められた立候補の欠格状態にある人でない限り、立候補は受け付けることとなります。」という旨の答弁がありました。(記憶を手繰って書いているため、正式には後日公開される中野区議会の議事録等でご確認ください)

 一方で、区長部局の職員との質問のやり取りの中では、一部のみの抜粋となりますが、概ね以下の様なやり取りがなされました。(記憶を手繰って書いているため、正式には後日公開される中野区議会の議事録等でご確認ください)
石坂「今回の条例改正が通るか通らないかによって、3選をしているの区長が4選を目指して区長選挙に出る場合に何らかの差が出るのかどうか、いかがですか?」
職員「差は出ません。」
石坂「ではなぜ改正するのですか?」
職員「多選自粛規定があることによって立候補をしようとする者(今の区長だろうが、今後の新たな区長だろうが)の足かせとなり、区政の選択肢が狭まる可能性があるためです」
石坂「現在の努力規定の状態でも現職の区長が事実上出ると言っている状態であるならば、今現在では足かせになっていない。であるならば、今現在改正の判断を慌ててする必要はないのではないでしょうか。新たに選挙で選ばれた区長の下で審議をすればいいのではないかと思われます。」
・・・・・・・・

職員「多選の弊害を防ぎ、活力ある区政運営を実現するための方法をきちんとPDCAのサイクルのなかで様々な施策への検証を行うことで成し得ていきます」
石坂「具体的にはどのように行っていくのですか?」
職員「今後の取り組みの中で具体的には考えていきます」

・・・・・・・・・
石坂「他の自治体の多選禁止や多選自粛を定めている自治体の状況や、中野区における過去の多選をした区長にかんする検証などを十分に行ったうえでの条例改正提案なのですか?」
職員「それは行っていない。一般質問の中で多選自粛規定を巡って多くの議員からの質問があったことで、改める場所は速やかに改めるべきと考えて改正を行うものです」

・・・・・・・・・・
 
 私の思いとしては、現在の区長であろうが、別の区長であった場合であろうが、100%私が望ましいと思えるような区長であった場合であろうが、100%私が望ましくない区長であった場合であろうが、現在の区長が区長を続けることについて過去の実績や弱点、多選の区長であれば多選による強みと弊害をきちんと検証をし、それを区民につまびらかにしたうえで、区民の審判を仰ぐべきであると考えております。
 これについては、現職の区長が気に入る、気に入らない。区政の流れを変えたい、変えたくないというような政局ではなく、とりわけ自治の基本である自治基本条例に向き合う上では議員の信念と政策的な判断に基づいて判断すべき事柄であると考えております。少なくとも、政党に依らない無所属の議員として、判断を求められた時には、その時々の政局で判断を揺らぐようなことはあるべきではないと感じています。

 ただ、上記の質問等のやり取りの中では、条例改正を急ぎすぎているという事は否めず、もっと情報を収集し、熟慮し、時間をかけて議論をし、結論を出すべきであるという考えを強く持ちました。
 
 なお、本日の議会では、共産党さんが「立候補の自由を妨げるべきではないという我々の主張がようやく行政をも動かすこととなった。しかし、区長選が近いこの時期での改正には反対である」と改正への反対討論をされました。

 しかし、内容的には自分たちが主張してきたことではあるけれども、時期がふさわしくないという場合に取るべき行動が反対なのだろうかということには私自身としては違和感を持ちました。

 本日の総務委員会を傍聴されていた他の委員会に所属をされている一部の議員さんが、ネット上で途中の経過を省いて、
「委員会での審議結果は、採決の結果賛成多数で可決し、賛成側からはその理由を明らかにする討論がなかった」との書き込みをされているようです。

 しかし、賛成をする側も反対をする側も、全ての議員がこの3日間の間にそれぞれ自分の意見について質問のやり取りをする中で自らの意思の表明をしてきましたし、賛否を問う前に、本日採決をするのか今後も継続審査をするのかということについての決を採ったことを無視されていることに違和感を感じています。

 私は上記のような質問でのやり取りをし、自らの考えを明らかにしたつもりです。また、
本日採決をとるか、継続審査をするのかということについて、「継続審査を希望する議員は挙手をしてください」という委員長からの問いかけに対して、全ての政党が採決を取るべきとして手を挙げない中、挙手を致しまして、継続(=引き続き議論をすべき)に賛成をしました。(結果的に、2対6の圧倒多数差で負けてしまいました。また、賛成討論、反対討論の機会があるのに対して、継続を主張する場合には討論の機会がなく、討論という形では自分の主張が出せないことは残念ではありました。)

 なお、その後、採決をすると決まってしまった以上、残された道は、多選自粛規定を削除することに賛成するか反対するかという事になりますが、十分な審議がされていないというやるせない思いはしつつも、結論を出さなければならない以上は、被選挙権に関する自らの政治信念に則り賛成に一票を投じることにいたしました。
 なお、ここで賛成をするにあたり賛成討論をすることは可能ではありますが、第1に継続を主張している自分が、継続に関する討論ではなく、賛成に関する討論をするのはおかしいような感じがしたことと、質疑応答の中で言い尽くせない部分はありつつも、継続すべきという主張はしているため、討論は見送りました。
by wishizaka | 2014-03-18 17:45 | 議会内の活動(質問など)
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